iPadが発売されて4ヶ月が経とうとしているが、これにより世界中の出版業界が慌ただしくなっている。まず日本だが、業界認識は「iPadは出版業界の敵」位にしか思っておらず、とりわけ印刷業者や通信業界が出版社を取込んで牙城を築こうとしている有様。とにかくこの国の認識はその程度で、黒船iPadは出て行け!と云わんばかりの意気込みで、日本の村社会の存在をマジマジと見せつけられてる。家電のSHARP等は独自の端末を発表したが、発売は年末らしく、それまでに何とか賛同出版社を募りたいらしく、SONYも電子端末老舗企業として、自社のReaderで日本市場にファイトバックしたいと考えてる。NTT DoCoMoも大日本印刷と共同で、電子書籍に後出すとか云ってるが、出版社は1社も賛同してない。NTTも大日本も出版ではなく、通信と印刷なので、今回のiPad戦略から云わせれば、「蚊帳の外」「部外者」に過ぎないのが物哀しい。とにかく4月のiPadのリリースで、日本の出版業界は蟻の子が騒ぎ出すと云った様相だ。今日の本題は「日本の反応」ではない。アメリカでもiPadの出現で、「出版代理人達が出版社から嫌がらせを受けてる」と云う困った記事があったので紹介する。事の発端は、作家を抱えてるエージェントが、出版社を無視して、電子書籍の会社を立ち上げ、Amazon.comと独占販売契約を結んでる輩が徐々に増えて来てると云う。 John Updikeの"Rabbit Run"シリーズ、Vladimir Nabakovの"Lolita"、Hunter S. Thompsonの"Fear and Loathing in Las Vegas"等、旧作の有名作家を扱うエージェントThe Wylie Agencyは「一般の出版社とセコい契約を交わすくらいなら、Amazonに電子書籍契約を交わした方がマシ」と云う者も少なくないと云う。これに怒ってるのが老舗で世界最王手の出版社Random Houseがあからさまな不快感を表し、そういったエージェント達をブラックリストに載せ、他の作家やエージェント達を脅かしてると云う。大手出版社が分かってないの
が、最初、出版権をゲットした時、その時の契約書に電子書籍の権利が含まれてたか?って事だ。ほとんどはノーと思ってる。業界最大手のRandom Houseでさえも同じで、相手を脅迫するしか他に手立てがないのが実情だ。膨大な数の出版物を失うのは確かに出版社にとって恐ろしいが、長期的な視野で見ると、頭のいいやり方ではない。Random Houseは2002年に一度、電子出版のベンチャー企業Rosetta社を告訴するも敗訴してしまった過去がある。つい最近では、ドイツに本社を置くBertelsmann Publishing社のMarcus Dohl会長が、出版エージェント達に「電子書籍には断固反対する」と通達した。しかし同社が電子書籍の出版権を管理してるかどうかには全く触れられてないと云うお粗末な事に。「電子書籍の出版権は作者に帰属しているなんて彼等は一言も云ってない。彼等、出版社の言い分は、紙の本の出版権は彼等が持ってる、会社の経営コストもかかるし、電子書籍はこれからおいしくなる飯の種。もし、電子書籍出せないなら、もうお前らを相手にしないと云ってる様なもんだ」と、業界ベテランのエージェントは事の顛末をこう説明する。「出版社が夜眠れなくなる様な契約書が2種類あると聞いた事がある。電子書籍登場前に作成された契約書、つまり”著作権は出版社には帰属しない”と云う文言が書いてあるもの。Random Houseは裁判で相当な努力でその権利を勝ち取るだろうと多くの人は感じてる。電子書籍登場後の契約書も怪しくなる。マイクロフィッシュ等と云う誰も使わない様な単語の入った契約書で、Eブック(電子書籍)と云う単語はどこにも見当たらない」と説明する。大手に嫌がらせを受けてる出版エージェントは、中間マージンを搾取する人間を排除し、作家達にもっと取り分を提供出来る様にやってるだけである。Wylie社の突然の「暴挙」の起こった同じ日に、偶然、Amazon.comは同社の端末Kindleで電子書籍が読める様に、もっと多くのEブックを紙の本以上にネット販売すると宣言した。作家やエージェントは大手出版社の電子書籍の取り分が余りにもアンフェアな価格設定に憤慨してい
た。紙の本に比べ、明らかに製本コストは格安なのに、作家側の取り分はたった25%と云う事実に納得がいかない者が多く、電子出版差し止めを叫ぶ作家も出て来た。「もうこうなったら契約書の見直ししかない。ほとんどの契約書に電子書籍と云う単語が触れられてない」とは、多くの有名作家をクライアントに持つ著作権弁護士Mike Rudell氏。Wylie社のケースに続く会社、作家が後に続く可能性は非常に高い。作家Pat ConroyのエージェントMarly Rusoffは電子書籍専門の出版社Open Road社と絶版本4タイトルを電子書籍として出版する契約を交わし、契約内容は売上は同社と作家でまっ二つに分ける。日本の出版業界の常識としては、作家側の取り分は10%以下である。Open Roadがどこまでやれるのかは全く不透明だが、同社のJane Friedman社長は会社設立に300万㌦(約3億円)の資金を突っ込んでると噂され、同社広報は「ヘッジファンドから400万㌦の追加融資を決めたばかりで、会社の運営資金が枯渇する事はない」と云っている。一方、代理人のRobert Gottlieb氏は自前の電子出版社の設立に二の足を踏んでいる。それは大手出版社の嫌がらせにビビってる訳ではなく、「公私混同の問題が浮上してしまう。作家から受託している代理人との関係にパートナーシップと云う名目が追加されると、訳が分からなくなってしまうからだ。もう一つは、作家がオンライン出版をやると、これまでの作家に対する法的防衛策が木っ端微塵になる可能性がある。もしあなたが死んでる作家の場合、誰かが勝手に盗作したり、他の理由で訴訟になった場合、死んだらどうする事も出来ない。出版社にも保険や法的手段もない。老舗の出版社や出版メディアにとっては死活問題だ。何故こう云う事を云うかと云うと、出版社に2000年まで電子出版権等、存在し得なかった」とTrident Media GroupのRobert Gottlieb会長は云う。「現在、出版社の売上の30~40%は既刊本からの収入だ。数年後には全書籍売上の50%以上が電子図書になるだろう。バックリストを失ってる出版社は、これから市場からの退場を余儀なくされる事は間違いない」。Random Houseも当然、この事は分かっており、自前の電子書籍部門も設立され、電子図書の動向も社内分析している。前出のMarcus Dohl会長は現在、電子出版全体を静観しており、相当な危機的状況下でない限り、下手な行動はとれないと考えている。「出版社が心を入れ替えて、将来を見据えて良い関係を保持すれば、バックリストから速攻で、利益が出ると思ってる」と云う.....。
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