Thursday, October 14, 2010

Crazy Entrepreneur

インタビュー:チロルチョコ株式会社 代表取締役 松尾利彦氏

アメリカでの出会い

1974、5年頃アメリカに留学していたのですが、ある日たまたま映画館にふらっと入って観たのが、 ディバイン主演の映画"Pink Flamingos"でした。 何の先入観も予備知識も無く観たので、「なんじゃこりゃ?!こんな映画があるのか!!」という衝撃をガーンと受けました。この頃はアンディ・ウォーホールに代表されるポップアートが色んなジャンルから出てきて、70年代のアメリカ全体が一連のムーブメントの中にありました。この映画はとても強烈な内容なのですが突然変異的に出てきたのではなくて、当時のアメリカ文化から自然発生してきたものだったので、余計面白かったんですよね。僕はアマノジャクでして、世の中の予定調和をどうやって壊そうかっていう、テーマみたいなものが常にあります。そしてディバインというキャラクターを、いつの日か自分なりに表現してやろうと思っていました。ある日、『天才・たけしの元気が出るテレビ !!』というTV番組に出ていたジュゴンというタレントを見て、「あっ、これはディバインだ」って思ってすぐ当社のCMに起用したんです。10月号で写真について話していた西さんもそうだと思いますが、趣味を仕事に採り入れているという訳ではありませんよね。やっぱり、本人にとってはその行為の起承転結全てが娯楽になっている訳ですよ。だから僕も、映画はあくまでも楽しみとして観ていて、そんな中で「これは面白いな、このテイストを商品や企画やCMに取り入れてみたら面白いな」って思う事がありますが、それはビジネスではなくてレジャーなんですよね。最初の15分で決まる作品を最後まで観るか観ないかは、だいたい最初の15分で決めるんですよ。それで今まで外れた事はないと思うんですけど、面白くない映画って、演出と言うか編集が、最初からダルいんですよね。話の運び方やカット割のテンポが悪い映画って、全体を観ても面白くないですよね。頭の中のイメージをスムーズに観客に伝えるのは監督のセンスです。その意味ですごく良いなーって思ったのは、タランティーノ監督の“Reservoir Dogs”の出だしですね。男が4人ぐらいでダラダラとした会話を意味も無く続けるんですが、なんかすごいいいんですよね。タランティーノタッチって言うのかな?ああいう映画の導入部って、初めて見た様な気がしますね。それまでこの監督を知らなかったんだけど、あの会話にすごく引き込まれましたね。

映画は観られて完成する

僕はある映画の脚本を書いたことがあります。制作者としてお金も5000万円出しました。映画って作った段階ではまだ半分しか出来上がってなくて、どうやって人に観せるのかっていうのが、あと半分あるんですよね。自分で作ってみて、大赤字を被って初めて判ったんですけど、見せてナンボです。営業的なマーケティングの仕掛けや仕組み、そういうものが出来上がっていなかったら映画って成り立たないですね。すごく現実的な話なんですけど。でもすごく面白かったですよ。  映画制作の現場っていうのは、本当にワクワクするんですよね。何ていうんだろう。学園祭みたいな、祝祭の空気が流れるんですよ、現場にね。役者さんがいて、監督がいて、カメラマンがいて、録音さんや美術、その周りにいろんなスタッフの人がいる。そういう空気がいいんですね。やっぱり観るより作るほうがずっと楽しいな。

幻を作っている現場にリアルな人間関係がある

で、発見したのは、映画というバーチャル世界を作る現場の人間関係っていうのはごまかしが効かないという事です。一方ビジネスという現実世界の人間関係っていうのはバーチャルなんですね、これが。逆なんですよ。会社や社会における人間関係は、ある意味バーチャルですよ、みんな。あいだに会社なり商品なり、サービスっていうものが介在して人間関係が成立しています。だから人との付き合い方がバーチャルになってくるんですよ。でも、幻のような作業をしている映画制作の現場っていうのは、生身の人間同士がぶつかり合う場所。それが魅力でしてね。みんな自分の能力と人間性で勝負している。そこには何の媒体も無くて、一人の人間としてぶつかってしていくしかない。そういう場所から作品がアウトプットされていきます。だからその人に魅力や能力が無かったら、次は使ってもらえないんですね。一緒に仕事してくれないんですよ。それは緊張感もあるし、面白いところでもありますよね。そういうところが、いわゆる一般的なビジネス社会とは異なった世界ですね。映画なんて妥協の産物です。限られた予算とタイムリミットの中で、とにかく作らなければいけないという状況に置かれるわけですから。でもそれを乗り越えていい物を作ろうと皆で知恵を出し合うっていうのがまた面白いんですよ。ただ大金がかかるので、映画の魔物に取り付かれちゃうと、本当に身代潰してしまいますよ(笑)。

松尾利彦 1952年福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、米国に留学。77年松尾製菓入社。91年に社長就任した直後、事業の再構築に着手。採算が悪化していた冷菓部門を自社生産から委託生産に切り替えると同時にチョコレートなど製菓部門へ事業をシフト、一人も解雇することなく同部門の黒字転換に成功した。04年に松尾製菓の企画・販売部門を分離独立しチロルチョコ(株)を設立し、代表取締役に就任。駄菓子屋中心からコンビニなどに新しい販路を開拓、斬新な新商品開発で同社を成長に導く。

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